聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~真実の詩~
「なぜそこまで教師にこだわるのです」

「…フリード卿」

女王の声は静かだった。

「私は、自分の無知を自分でわかっているつもりです。それでも女王として、国のためにできることをやっていきたい、できることを少しずつでも増やしていきたいのです。そのためにはどうしても、あなたのように博識な方の教えを乞う必要があります。どうかお力を貸していただけませんでしょうか。もう失望はさせません。どんな勉強にもついていきます。だから……」

フリードはこの時ついに心打たれた。

女王の重ねる言葉に打たれたのではない。目だ。女王のまなざしに宿る本気の想いに打たれたのだ。

普段冷血漢を自覚するフリードだ。審美眼ならぬ鋭い審真眼を標榜(ひょうぼう)するフリードだ。それなのに彼はこの時女王の瞳の中にひとつの真実を見出した。

―女王は弱かったのではなかったのだと。ただ、強さを表に出せなかっただけなのだと。

その証拠に今、彼女は新芽が土を割って飛び出すような力強さでフリードをみつめている。華奢な体のどこにそんな力が秘められていたのだろう。

フリードはふんと鼻を鳴らした。その唇の端はわずかに持ちあがっていた。

「………一週間後までに」

フリードは私室の本棚から数冊の本を手に取りテーブルの上に置いた。

「この本を全部読むこと。私のことは先生と呼び、教える間は生徒としてふるまうこと。その間は一切、敬語は使わん。いいな」

女王の瞳が輝くのを、フリードはまともに見ないようにした。彼らしくもなく、照れくさかったのかもしれない。
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