聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~真実の詩~
グラヴァウンは酒を飲む手を止めてふと思い立ち、今すぐ練兵場に行ってみようと思った。

最近練兵場がやけに綺麗に掃除されていると気付いたのは10日ほど前だ。

それで部下たちを褒めてやったのだが、彼らは誰ひとりとして身に覚えがないという。

そんなはずがない、誰かが謙遜しているのだろうと注意深く部下たちを観察したが、どうしてか訓練中はそれらしい人物が見当たらない。

それでどうやら、夜の間に誰かが綺麗に掃除をしているようだという結論に至った。

すっかり夜も更けたこの時刻。

青白い月がその凛とした横顔を藍色のスクリーンの上に浮かべている。

本当にこんな時刻に掃除をしている兵士がいるのかと半信半疑ながら、グラヴァウンは総帥邸を出て夜道を練兵場へ急いだ。

夜間は真っ暗闇のはずの練兵場の入口にひそやかな灯りがともっているのを見つけた時、グラヴァウンは誇らしい気持ちになった。

どんな兵士だか知らないが、感心ではないか。グラヴァウンは胸の内でたくさんのほめ言葉を準備した。彼は、叱るときは思いきり叱るが、ほめる時は思いきりほめるのが信条だった。
< 61 / 141 >

この作品をシェア

pagetop