聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~真実の詩~
「本当に困った女王様だよ」

ダークブラウンが基調の落ち着いた店内のカウンター席で、グラヴァウンはたっぷり泡が立った麦酒片手に隣の男に話しかける。

「練兵場の壁にとれない染みがあったんだよ。あれはもう間違いなくフローテュリア滅亡前からあっただろうっていう、相当古くて頑固な染みだった。女王陛下は“できるだけすっきりとした気持ちで練習に臨んでほしい”とかなんとか言いながらそれを落とそうと一生懸命になってな、わざわざプリラヴィツェから強力な洗剤を取り寄せたんだ。それも私財を投じてだ。それで夜中に必死でこすってこすって、やっと染みがとれた時にはもう、とびはねて大喜びだよ。染み一つでおめでたいことだ」

隣でオレンジ色のカクテルの杯を静かに傾ける男―フリードは、「あの女王のやりそうなことだ」と相槌を打って話を継ぐ。

「本当に、あんなに貪欲な人間は見たことがない。私が与えた課題以外のことまで調べてきては、質問攻めにするのだから。最近は予算を増やすにはどうすればいいかしつこく聞いてきて…」

その時フリードは端的に答えてやった。

儲けるか、税を増やすかのどちらかだと。

女王はすると『儲けるしかないですね』と顎をつまんで考え込んだ。当然予想される次の質問を女王が口にする前に、フリードは『自分で考えてみろ』と女王を試した。

『牛、羊、豚をこの間たくさんヴァルラムから購入しましたから、来年には牛からとれるミルクやそれの加工品、ヒツジからとれる毛を使った毛織物業、豚の皮革製品や剛毛ブラシなどか産業として根付くと思います。そこから利益をあげられれば予算は上がるでしょう』

まずまずの答えに、フリードは頷いてやった。

『ほかには』

問うと、女王は瞳をめぐらせて、しばし考えた後口を開く。

『王国の石材は丸ごと無事だったと聞いています。今はまだ人手が足りず手つかずだということでしたから、そこに労働力を集めて採石します。御影石や安山岩がとれれば土木作業にも役立ちますし、蛇紋石や大理石がとれれば立派な収益をあげられるでしょう』
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