聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~真実の詩~
『まあ、なんて素敵なんでしょう。リュティアがつくったの』

母ユーリアが優しく目元を綻ばせて、何かをリュティアから受け取っている。リュティアはまだ六歳くらいだったろうか。頬を薔薇色に紅潮させて照れている。

『はい。ユーリアおかあさまのおへやに、きっとおにあいになるとおもって』

『ありがとう、リュティア』

いったい何を贈ったのか気になってカイが二人の手元をのぞきこむと、そこにあったのは小さな花冠の押し花だった。

この頃都で流行していたもので、編み上げた花冠をそのまま押し花にするのだが、形良く押し花にするのはこれがなかなか難しいという。それなのに幼いリュティアの作った押し花は見事なもので、あまり花になど興味のなかったこの頃のカイでも感嘆した。

王家とは遠縁にあたる伯爵家の姫君だった母は、王妃付きの侍女をやっていたが、商人の夫との身分違いの結婚で宮廷を追われたという過去がある。

それを押しての王妃のたっての希望で乳母に選ばれてしまったがゆえに、結果として辺境の湖の館で夫と別居しリュティアを育てることとなった。が、母は決してリュティアを恨んだりはしなかった。

この頃リュティアはまだカイの母のことを“おかあさま”と呼んでいたし、母もリュティアのことをほかの子供と分け隔てなく呼び捨てにしていた。それが母なりのあたたかな優しさであり気遣いであり覚悟であったことが、今のカイならわかる。

母は我が子のようにリュティアを愛し、叱り、抱きしめていた。

乳母に選ばれたその日から、聖乙女としてでなく王女としてでなくリュティアと接すると決めていたのだろう。

母は“この子はあなたたちと同じく私の宝。どうか守ってあげてね”が口癖だった。

だが、母がどう思おうと、子供だったカイには母が愛する父と離れて暮らすことが耐えがたかった。それは少なからずリュティアのせいであると、わずかに反感にも似た思いを抱いていた。
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