聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~真実の詩~
「私が教師についているんだ、それぐらいわかって当然だがな。―それで予算を増やしてどうしたいのかと聞いたら、もっと産所を整備したいという。“安心して子を産める国であってこそ、栄えるのではないでしょうか”などと、一人前のことを言っていたな。ふん」

フリードはばかにしたように鼻を鳴らしたが、それでもその予算のために彼が現在駆けずり回っていることをグラヴァウンは知っている。

それは女王を気に入っているからではないのか、と思ったが、彼は言葉にする愚を犯したりしなかった。怒るに決まっているからだ。

二人はともすれば女王の話ばかりしがちな自分たちに気付かないふりをしながら酒を酌み交わし、翌日の仕事に差し支えない程度の時間に切り上げて、街からそれぞれの屋敷のある王宮へと戻ることにした。

城門前がいやに騒がしいことに先に気がついたのはどちらだったろう。二人とも鋭い観察眼を持っているから、ほぼ同時だったに違いない。

兵士たちや侍女たちが何かバスケットのようなものを囲んで輪になっている。そしてこの場にはあまりにも不似合いな、響きわたる赤ん坊の泣き声。

「何の騒ぎだ」

「総帥様、宰相様。実は………」
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