聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~真実の詩~
「どうかなさいましたか」
グラヴァウンたちとほぼ同時に、王宮の方向から、桜色の髪を品よく結いあげた女王が単身現れた。皆が息をのむのがわかった。黄色のナイトドレスの上に純白のショールを羽織った女王のその姿が、やはり夜目にも際立って美しいからだ。
「女王陛下。実は捨て子がありまして…なかなか泣きやまないのです」
「捨て子…?」
見れば、バスケットの中で、毛布に何重にもくるまれた乳飲み子が泣いていた。
女王はなんのためらいも見せずかがみこみ、泣き続ける赤ん坊をその腕に抱き上げた。
「大丈夫、大丈夫…」
女王の手が優しく赤ん坊を揺らし、ぽんぽんと軽く背中を叩く。
―子守までするのかこの女王は。
フリードもグラヴァウンも含め、皆言葉がない。
女王の優しい声と体温に安心したのか、赤ん坊が泣きやんだ。女王は「そう、怖くない」と囁いて微笑むと、不意に子守唄を口ずさみはじめた。
それはフローテュリアの民なら誰もが知っている、短い子守唄だった。
だが、その歌声の清廉さときたらどうだろう。夜空にどこまでも澄んで響き渡り、居合わせた人々をどこか懐かしいような気持ちにさせる。
その時雲間から月光が差し込み、歌う女王を照らしだした。
それはフリードとグラヴァウンにとって、忘れえぬ一瞬となった。
二人の肌が粟立った。
絵画のように美しい一瞬だった。もしもこの場面が本当に絵画だったなら、“月の女神の祝福”…そんなタイトルをつけただろう。
我知らず、グラヴァウンはつぶやいていた。
「…優しいってこたあ、いいことだな……」
彼の隣でフリードがふんと鼻を鳴らしたが、その唇はしっかりと微笑みの形に歪んでいた。
二人はこの時、どうしてこの人が聖乙女なのか、わかったような気がしていた。
グラヴァウンたちとほぼ同時に、王宮の方向から、桜色の髪を品よく結いあげた女王が単身現れた。皆が息をのむのがわかった。黄色のナイトドレスの上に純白のショールを羽織った女王のその姿が、やはり夜目にも際立って美しいからだ。
「女王陛下。実は捨て子がありまして…なかなか泣きやまないのです」
「捨て子…?」
見れば、バスケットの中で、毛布に何重にもくるまれた乳飲み子が泣いていた。
女王はなんのためらいも見せずかがみこみ、泣き続ける赤ん坊をその腕に抱き上げた。
「大丈夫、大丈夫…」
女王の手が優しく赤ん坊を揺らし、ぽんぽんと軽く背中を叩く。
―子守までするのかこの女王は。
フリードもグラヴァウンも含め、皆言葉がない。
女王の優しい声と体温に安心したのか、赤ん坊が泣きやんだ。女王は「そう、怖くない」と囁いて微笑むと、不意に子守唄を口ずさみはじめた。
それはフローテュリアの民なら誰もが知っている、短い子守唄だった。
だが、その歌声の清廉さときたらどうだろう。夜空にどこまでも澄んで響き渡り、居合わせた人々をどこか懐かしいような気持ちにさせる。
その時雲間から月光が差し込み、歌う女王を照らしだした。
それはフリードとグラヴァウンにとって、忘れえぬ一瞬となった。
二人の肌が粟立った。
絵画のように美しい一瞬だった。もしもこの場面が本当に絵画だったなら、“月の女神の祝福”…そんなタイトルをつけただろう。
我知らず、グラヴァウンはつぶやいていた。
「…優しいってこたあ、いいことだな……」
彼の隣でフリードがふんと鼻を鳴らしたが、その唇はしっかりと微笑みの形に歪んでいた。
二人はこの時、どうしてこの人が聖乙女なのか、わかったような気がしていた。