聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~真実の詩~
リュティアは涙の浮かんだ瞳を見開いて、二人の逞しい背中を見上げる。

ポルカは顎を引きながらも食い下がる。

「しかし、神殿の宝を盗まれたのですぞ、これはあってはならないことで――」

ポルカの上ずった反論を、フリードの冷淡な声が遮った。

「賊は主宮殿の内部にまで侵入したということ。主宮殿には陛下の御部屋もあるのですよ。宝剣一本より、陛下のお命が無事であったことを喜ぶべきではないのか。それとも陛下のお命より宝剣が大事だとでもおっしゃるのか」

ぐ、とポルカが呻きにも似た声を出して言葉に詰まるのがわかった。ポルカはまだ口の中でごにょごにょと言っていたが、グラヴァウンのとどめの一睨みですごすごと帰っていった。

リュティアは信じられない思いで放心したように二人の背中を見上げていた。

―あのグラヴァウンと、フリードが。

なんだろう、胸がじんわりとあたたかい。
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