聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~真実の詩~
一行は今、巡礼路と呼ばれるフローテュリアとヴァルラムをつなぐ広い街道の脇に馬車や馬を止め、休憩のため火を囲んでいる。休憩とは言ってもリュティアの周りには兵が詰め、ちっとも心は休まらない。

リュティアは兵たちから表情があまり見えないよううつむきながら、なぜため息が出るのか自分の心を探った。

―最初は王位など、重荷だと思っていた…。

自分には女王など務まらないと思っていた。世界のために、フローテュリア再興のために、どうしてもやらなければならないからやっていたようなものだった。

だがグラヴァウンやフリードが女王だと認めてくれるようになった。人々に女王様と感謝されるようになった。女王として働きたい気持ちは、いつのまにか大きなものになっていた…。

―けれど、ラミアードお兄様は王位にふさわしいお方…。

聡明で、エネルギーがあり、優しい。自分などよりずっと、王位にふさわしい。国の将来のためには、自分が位を譲った方がいいのだ。

かといって世界を聖なる守りの力で包み続けるためには、女王であり続けるしかないのも事実だから、ことはややこしいのだ。いったいどうすればよいのだろう…。

一方、列の後方で魔月の気配を警戒するカイとパールのもとにも、ラミアードがやってきた。

「はい、君にこれを。このあたりは冷えるからね」

と、ラミアードは優しくパールの肩にブランケットをかける。パールは口の中でごにょごにょと礼を言いながら、ぽうっとなって彼を見上げている。その様子を見ていた兵たちが、感じ入ったというふうに声を上げた。

「…お優しい。ラミアード殿下ほど、王にふさわしい方はいらっしゃいません」

「自分もそう思います」

―ラミアードが王位にふさわしい?

そんなことはない、とカイはそれを聞いて思った。
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