聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~真実の詩~
最初から王にふさわしい人なんていない。王となった者の行いによって、その人がふさわしかったかどうかが決まる。カイは昔からそういう考えだった。

そうだ。昔から、ラミアードが王にふさわしいかどうかなんて、カイは考えたことがなかった。

ラミアードはラミアードだった。だから長い間、ただラミアードと呼び捨てにしていた。

王太子なんて、関係なかったのだ。出会った時からそうだった。

あれは二人が四歳の頃、辺境の湖の館でのことだ。リィラとリュティアが眠る部屋に、突然どこからか闖入者が現れた。

生まれたという妹をどうしても見たくてなんと一人で城を抜け出しやってきたラミアードだった。

一人で絵本を読みながら子守りをしていたカイは、目を丸くした。

『あなただれ?』

訊ねると、ラミアードは誇らしげに胸を張って答えた。

『わたしはラミアード。このくにのおうじだ!』

『…ふうん』

『ふうんって…おどろかないのか。ひれふさないのか』

『ひれふす? そんなこと、するもんか。で、ラミアードはなにしにきたの? いっしょにあそぶ?』

幼いラミアードはカイの態度にひどくうろたえた様子だった。だが、目的を思い出したのだろう、眠る赤ん坊におそるおそる近づいてきた。

『いもうとをみにきたんだ。どっちがわたしのいもうとだろう』

『どっちもぼくのいもうとだよ』

幼いカイはまだリュティアを自分の妹と思っていた。

『こっちだ…こっちのこが、わたしのいもうとにちがいない…なんてきれいなかみをしているんだろう…』

『ぼくのいもうとだってば』

その時急にリュティアがふにゃふにゃと泣きだしてしまった。それに便乗するようにリィラまで泣きだし、カイとラミアードはおおいに慌てた。

二人して赤ん坊の前をうろうろし、「ばぁ」とか「ほぅら」とか声を出しながら変な顔をつくってあやす。

その互いの顔を見て、二人は同時に吹き出した。

『おもしろいかお』

『きみこそ』
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