聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~真実の詩~
松明の灯りとは不思議なものだとカイは思う。どこか幻想的で、なおかつ野趣に富んでいて、なぜか胸をわくわくさせてくれるのだ。

「あの時はカイが暗闇を怖がって、しきりにラミアードラミアードと私の名前を連呼していたよな」

「そうでしたっけ?」

カイはふと思った。あの頃はまだラミアードと呼び捨てにしていたのだ。いったいいつから、殿下と呼ぶようになったのだろう?

カイは頭をひねって考えたが、どうしてもその答えをみつけることができなかった。そうこうするうちにラミアードが茂みをかきわけ、「ついたぞ」と喜色に滲んだ声を出し、なぜか松明を消してしまった。

あたりは真っ暗闇になったかと思えば、そうではなかった。

そこは闇夜に白く輝く泉だったのだ。

比喩ではない。

本当に光っているのだ。

しかし輝いているのは泉そのものではなく、その周囲を無数に飛び回る小さな何かだった。小さな何かが放つわずかに明滅する白い灯りが泉を薄ぼんやりと幻想的に照らし出している様は、妖精の住み家のごとく美しかった。

カイは黄泉の国で見た光る記憶の雪を連想して、思わずその小さな光るものに手を伸ばした。触れてみて、気付く。――虫だ。

「冬蛍というんだ。美しいだろう?」

「雪みたいですね…そうだあの時」

二人でいるこの状況と美しいから連想して、カイの胸に蘇るものがあった。

「あの洞窟探検の時、何かとても美しいものを二人で見つけましたよね。それで夢を語り合ったはず」

「ああ、立派な王になるという夢だろう?」

ラミアードのセリフに、カイは何か違和感を覚える。
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