泣き虫王子と哀願少女
ガタッ!
「雫? どうしたの?」
突然後ろを振り返った私に、明里がキョトンとしながら問いかける。
「明里、今誰かこっち見てなかった……?」
「え? 別に気付かなかったけど……」
明里の位置からは後ろ側の入り口が見えていたはずだが……。
やはり私の気のせいだろうか?
気のせいにしてはあからさまに敵意を含んだリアルすぎる視線に、背筋が凍りつく。
額に浮かんだ冷や汗が一筋、頬へと流れ落ちた。
「雫? 雫、大丈夫? 顔色悪いよ? どうしたの?」
「う、うん。ごめん、何でもない」
「本当に? 何かあったらすぐ言うんだよ?」
「うん、ありがと」
これ以上明里に余計な心配をかけたくなくて、疑念を心の奥に仕舞い込む。
どうか……どうか気のせいでありますように……。
「クスッ」
そんな私の願いを嘲笑うかのように、ドアの陰でひとりほくそ笑む人物がいたことを、この時の私は知る由もなかった……――。