泣き虫王子と哀願少女
「あんな可愛い子と友達になっちゃったぁ!」
うふふ、と突然訪れた幸運を喜びつつ、本来の目的地である数学準備室へと上機嫌で入って行く。
「失礼しまーす!」
「! おう、深海ご苦労だったな!」
私に気付いた須藤先生が「こっち」と手を上げた。
須藤貴矢先生は、主に2年の数学を担当している男性教諭。
年齢は20代後半で長身。ワックスで無造作に立たせた髪がトレードマークのなかなかのイケメン先生である。
気さくなこともあり、我が校の先生の中でも1、2位を争う程女生徒達から人気があった。
――ドサッ
そんな先生の机にようやくノートを運び終える。
「重かったろ?」
「いえ、大丈夫です」
本当はものすごく重かったのだけれど、そこはあえて虚勢を張る。
「それじゃ」と踵を返し教室を出ようとすると
「なぁ深海、お礼といっちゃなんだが、よかったらコーヒーでも飲んでかないか?」
「?」
須藤先生がニヤニヤしながら私を呼び止めたのだった。