泣き虫王子と哀願少女
「あーっは……あーはっは……」
「!!」
声こそ笑ってはいるものの、その表情はひきつっており、目もうつろのようにさえ思える。
いつも余裕に満ち溢れたプレイボーイの顔は、今はもう見る影もなかった。
先生、どうしちゃったの!?
そんな先生の様子に混乱する私。
恐怖心からか、無意識に体がジリジリと後退していた。
「ったく……あれだけ優しくしてやったのにっ!」
「えっ?」
先生の口から吐き出された言葉に、思わず自分の耳を疑う。
「どいつもこいつも水沢、水沢って! 俺をこけにしやがってっ!」
ガシャンッ
「キャッ!」
先生が手近にあったイスを派手に蹴り倒した。
―― どいつもこいつも?
いったい、誰のことを言ってるんだろう?
カラカラカラ……
そう思った時、不意に背後にある教室のドアが静かに開いた。
驚いて背後を振り返る私と先生。
そこに立っていたのは、私がよく知っているリカちゃんだった。