泣き虫王子と哀願少女
やっちゃったーっ。
さすがの潤君も音に気が付き、校庭から視線を外し私を一瞥した。
「よお」
いつもならそう言って挨拶してくれる潤君なのだが、今日はそれがない。
それどころか私がまるでそこにいないかのように、無言のまますぐに視線をそらし、席を立とうとした。
「あ、あのっ」
「……」
何も言ってくれない……。
こんなふうに潤君に無視されたことなんて、今まで一度もなかった。
返事の代わりに私に向けられたのは、何一つ感情が読み取れない、仮面のような潤君の冷たい顔だった。
あまりのショックに体中が凍りつく。
衝撃が大きすぎて、次の言葉が喉の奥に詰まったまま出てこない。
そんな私に、堪りかねたように潤君の方から声を掛けてきた。
「何?」
「えっ?えっと、あの……」
潤君の抑揚のない淡々とした物言いに、胸が潰れそうになる。
「用がないなら、俺帰るけど」
「! ……あ、うん、ごめんね……。何でもない……」
「…………」
私の言葉に何の返事をするでもなく、潤君はそのまま教室を出て行ってしまった。