泣き虫王子と哀願少女
ガラッ
「お母さんっ、おはようっ」
「おはよう」
いつものようにお母さんが、エプロン姿でお弁当を作っている。
弟の翔太はここ最近早い時間からサッカー部の朝練で、私が起きてくる頃にはもう既に家を出ていることが多い。
キッチンに姿がないことからして、きっと今日ももう出掛けてしまったのだろう。
相変わらず美味しそうな匂いが、私の鼻先をくすぐり空腹を刺激する。
「この匂いと油を揚げる音……もしかして唐揚げっ?」
「ピンポーン!雫、大正解っ」
私の大好物の唐揚げと聞き、今朝の夢でしぼみかけた元気が再びモリモリと湧いてきた。
「ねぇ、一個だけつまみ食いしてもいーい?」
「えっ?ダメよっ。お昼まで我慢……」
「いっただっきまーすっ」
「あっ、こらっ」
パクリ
お母さんが止めるのも聞かずに、隙をついて一個だけ口へと放り込む。
「あっ……あふい、あふいへほ、おいひいっ」
「あーもうっ、ほらほら、揚げたてだから火傷しちゃうわよ?」
そう言ってお母さんが、私に冷たい水が入ったコップを渡してくれた。
ヒリヒリする舌をいたわるように、勢いよくその水を口内へと流し込む。
「熱かったけど美味しかった~」
「んもう、この子ったら」
改めて感想を伝えると、お母さんはぼやきながらも嬉しそうに目を細めながら優しく微笑んだ。