アキと私〜茜色の約束〜

「この家を売ることは、あの日からずっと考えてたことなの」


あの日から…ずっと…?


「でも…でもっ!それじゃ、アキはどうなるの?」


ここはアキの居場所で、唯一の帰る場所なのに。


「引越すって言っても隣町に行くだけだから」

「それならわざわざ家を売らなくてもっ」

「もう…辛いのよ。この家にいるのは」


おばさんの目から大粒の涙が落ちた。
あの日から何度も何度も見たそれは、私の胸を抉る。

おばさん達の気持ちはわかる。
私だって自分の部屋から見えるアキの部屋に、前は当然のように灯ってた明かりが灯らなくなって、凄く辛い。

だけど、それ以上に辛いのはアキ本人でしょ?

アキは今も頑張ってる。
なのに、おばさん達は諦めてしまうの?


「茜ちゃん、ごめーー」

「見捨てるんだね」


おばさんの言葉に被せて喉の奥から絞り出した声は、怒りからなのか、悲しみからなのかわからないけど、酷く震えた。


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