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飯の量は減り、描く絵が変わってきていた。



先に眠るなこの頬には涙の跡があった。



風呂上がりのなこはいつも以上に甘えたがってた。



今朝、社長の車に乗るとき不安そうにずっと俺を見てた。



本当は気づいてたはずなのに、見て見ぬ振りをしてた。



俺はginjiさんが怖くて、なこを取られそうで、勝手に負けた気になって…。



嫉妬でオカシクなる自分に負けた。



勝負の前に逃げていたんだ。



「猫を生かすも殺すもお前次第なんじゃねーの?コイツは淳を中心に生きてんだから」

「でも…なこを笑顔にできたのは俺じゃない」



確かになこは、俺に1番懐いてる。



でもそれは、雛が1番初めに見たヒトを親だと思い懐くような、そんな感覚に近い気がする。



偶々俺があの日なこを拾って、家に連れて帰ったから。



恐れるなこを抱きしめたから。



恐怖のどん底にいたなこの、初めてのヒカリになれたから。



だからなこは俺に懐いてる。



それだけの話。



これから先、なこが仕事をしていって、世界が広がって…



なこを傷つけない人が大勢いることを知ったとき、俺はただの親のようなもの。



愛してはいけなかったのかもしれない。



いつか巣立つ日が来るなこを、笑顔で送り出せる自信は1ミリもないんだから。



「バッカじゃねぇの?」



広くはない仮眠室、よく通る声が響いた。



声の主は…



「ginjiさん⁉︎」



いつからいたのか、扉付近に立っていたginjiさんが近づいてくる。



俺の目を真剣に見ながら来るから、俺も目を逸らせない。



「nakoちゃんが優しい顔になっていた、あの瞬間を君が笑顔だというんなら、あれは俺に笑ってくれたんじゃない」

「…え?」

「あの時俺は、どうしてnakoちゃんがデビューする気になったか聞いたんだ」



絵が好きだから。



それ以外に何があんの?



「JUNくんに恩返しをするためだって」

「俺に…?」

「自分を救ってくれた君の負担にならないように、少しでも君を楽にできるように」



そんなの初めて聞いた。



恩返しなんて、そんなの俺は望んだことなんてないのに…



俺はなこがいてくれるだけでいいのに…



「nakoちゃんは、君から沢山のものをもらったから、お金を稼げば目に見えて返すことができる、そう考えたんじゃないかな?」

「…知らなかった」

「そんな話をしていたから、nakoちゃんはJUNくんが大好きなんだねって聞いたら、優しい顔して頷いてた」



なんだよそれ…。



結局俺が1人で空回りしてただけ?



「俺には微笑みには見えなかったけど…君にそう見えたなら、nakoちゃんはJUNくんを想ってあの顔になったんだ」



もうわかった…



もう、理解できたから…



もう絶対になこを突き放したりしないから…



だから早く目を覚ましてよ。




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