天国への切符



ガン…?

お母さんが…?



「スキルス胃ガンっていうガンだった。9月の終わりに胃の調子が悪いからって病院に行って…10月の初めには検査でステージ4、リンパや肺、腹膜にも転移していたことが分かってた」



お父さんは言葉をひとつひとつ噛み締めるように冷静にあたしに話した。



「とにかく遠隔転移がひどくてな…最初っから手術は出来ないって。無理だって。末期だって言われてた」




ウソだ…



「余命半年もつかどうか…もっと短くなるかもしれないとも言われてて。
でも…お母さんは真優には絶対に言わないでくれって。最後まで普通にそばにいたいからって…」


「…ウソ!」


「ウソじゃない、全部事実だ」


「……何で…何でそんな…」





だけど、言いながらふと頭によぎったのは何故かあの日のことだった。


あの日…目を真っ赤にしたお母さんが珍しくソファで寝ていた日。


あたしは床に転がっていた緑色の病気辞典というものを蹴って拾った。


あの時、何故だかすごく嫌な予感がしていたんだ。

何故なのかは分からなかったけど…だけど、ものすごく心に引っかかっていた。


でもそれは、おばあちゃんの病気のせいだと思ってた。


だけどお母さんは…もしかしたらあの時にはもう、死ぬことが分かってたの?


10月の始めには末期ガンだということが分かっていたとお父さんは言っていた。


だとしたら…あの時から、もうすぐ自分がいなくなることが分かってたってことだよね。



なのに…それなのに…

いつものように変わらずあたしに接してたの?



毎日お弁当作って。

毎日あたしを見送って。


門限を破っても、帰ったら必ず出迎えてくれて。


怒って説教しても……それでもまた、次の日になったらあたしに笑ってお弁当を渡してくれてた。


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