天国への切符





「…いってきます」



誰もいないと分かっているのに、家を出る直前、振り返ってつぶやいた。



だけど誰もいないから…

何も返ってくるわけもなくて。



シーンとする家の中の空気にキュッと唇を噛み締めると、あたしは玄関のドアを開けた。



外に出た途端、冷たい風が一瞬で頬を冷たくする。




「いってきます…」



青く澄み渡った空に向かって、もう一度つぶやいた。


お母さんがそこにいるような気がして。

空に向かってそう言った。


天国がどこにあるのかは分からないけど。

空から見てくれている気がしたから。


お母さんが、そこにいるような気がしたから。


「いってきます」って。

ちゃんと言いたかったのかもしれない。


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