天国への切符
自転車で走り出したいつもの道。
見慣れた景色なはずなのに、目に映るものすべてが違って見えた。
通り過ぎたお花屋さん。
いつだったのかも、もう忘れたけど。
お母さんにカーネーションを買ったことがあった。
そこのパン屋さんも、小さな頃はよくおばあちゃんと三人で来た。
ここのファミレスにも家族四人で時々来たな…。
走りながら、目の前の景色が急速に滲んでいった。
ここにも、あそこにも。
忘れていた思い出がたくさんあった。
振り返ることなんてしたことがなかったから、ずっと忘れていた。
幼い頃はずっとそばにいた。
そばにいるのが当たり前だった。
なのに、歳を重ねるごとに、どうして離れていったんだろう。
そばにいるのに、離れようとして。
近付かれると、うざったくなって。
どうしてかな?
きっと、ずっと大切にされていたのに。
どうしてだろう?
大切に…できなくなっていた。