天国への切符



「寒いな」

「えっ、あぁ…寒いね」

「サドルも超冷てーし!」

「あ、本当だ…お尻冷えちゃうね」



駐輪場に着くと、鍵を開けながら俺たちはやっと言葉を交わした。


和らいだその空気を出来るだけ壊したくなくて。




「インフルエンザ流行り出したとか言ってたけど、お前なったことある?」

「あるよ?二回だけだけど」

「へぇーっ!俺まだ罹ったことないんだよな」

「ははっ、ぽいよねー、風邪とかひかなそうだもん。何とかは風邪ひかないとか言うじゃん?」



平野との会話のテンポがいつものように続くと、すっげーホッとした。



「バーカ、風邪はひいたことあるっつーの」


「あ、そうなの?」


「16年間風邪ひいたことない奴なんて絶対いないだろ」


「あははっ、確かにねー」



平野の笑った顔を横目で見ながら漕ぎ出した自転車。


冷たい風に目を細めながら、俺たちは並んで帰り道をゆっくりと走っていった。

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