天国への切符



「あれ?平野?」




えっ?

走り続け、ちょうど小さな十字路を曲がった時だった。


名前を呼ばれ、あたしはハアハア言いながら立ち止まった。



「はぁっ、吉岡…」



そこにいたのは自転車に乗った吉岡だった。


ナイスタイミング!




「ごめん、乗せて!それからダッシュ!」

「は?何で?」



驚いた吉岡の声を無視してあたしは勝手に自転車の後ろに乗った。



「いいから早くしてよ!」

「はぁ?何だよ…ったく…」




ブツブツ言いながら、だけど勢いよく自転車は走り出した。


スピードがどんどん早くなる。

何度も後ろを振り向いた。


さっきの男の姿が、遠くに小さく見える。



その姿が完全に見えなくなると、あたしはホッと胸を撫で下ろした。


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