推理研究部
ぼんやりと聞こえるその声は次第に大きく、はっきりと聞こえるようになり、私ははっと目を開けた。
「椎香!」
永倉椎香(ながくら しいか)それが私の名前だ。
目を開けるとそこは3年1組の教室で親友の内村香菜(うちむら かな)が目の前に立っていた。どうやら私は机に突っ伏して眠っていたらしい。香菜が呆れたようにため息をついた。
ぼんやりした思考の中でさっきの告白も夢だったのだと気づいて安堵する。まさかこの地味な私が3人から同時に告白されることなんてありえないことだとは思うが、もし現実にそんなことが起こってしまえば、私は間違いなくパニックを起こすだろう。
現実に戻ってきたことを実感しようと見慣れた教室を見回すと、何故か違和感を感じた。もしかしてまだ夢の中なのではないかという不安に駆られ、香菜に尋ねる。
「ねえ、この教室、何かいつもと雰囲気違うよね」
香菜はその質問に一瞬きょとんとした表情を浮かべたが、すぐにもう一度ため息をついて答えてくれた。
「席替えしたのよ、席替え。あんたは寝てて動かないから変わってないけどね」
周りを見渡すと、確かに自分以外のクラスメイトはいつもと違う席に移動していた。
「何で起こしてくれないの!」
「いや、むしろ何で起きないのか不思議だよね」
担任教師である新城(しんじょう)先生が担当する日本史の授業中に席替えは行われたらしい。確かに遣隋使がどうしたこうしたの話のあたりから記憶が曖昧ではある。
新城先生が用意したくじを順番に教卓まで引きに行くという形式の席替えで、周りの生徒たちが立ち上がったり、歩いたり、くじを引いて騒いだりしている中、私は眠り続けていたそうだ。
「先生が起こすな、放っとけって言うからさ。あと放課後職員室来いってさ」
まさかこんな形で呼び出されるなんて思ってなかった。
勉強、運動、交友関係…どれをとっても平凡で良くも悪くも目立たない私。初の呼び出しだ。
「いーやーだー。この席気に入ってるし、席替わらないのは良いけど呼び出しなんて嫌だ」
ごねる私に呆れる香菜。
昨日遅くまでゲームなんてするんじゃなかった。