リセット
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「先日はお騒がせして申し訳ございませんでした」


職員室から市ヶ谷の声が聞こえた。俺はふと足を止める。久しぶりに会ったことだし、今日は一緒に帰ろうかと考えた。


「サトル、どうした?」


友人たちが不思議そうにこちらを見た。
そういえば、カラオケに行く予定だったんだっけ。頭の中で市ケ谷とカラオケを天秤にかけた。


「ごめん。今日やっぱり行かないわ」

「あ、そう? また誘うわじゃ」友人はあっさりと承諾してくれる。いいやつだ。

「おう。じゃまたな」

「またー」


だらしなくかばんをぶら下げて、カラオケへと向かう友人たちを見送る。
自分はそっち側の中なんだと、実感する。


窓際を向かいにして、職員室の扉近くの壁に寄りかかる。
多少の盗み聞きも兼ねて。


「――からと言って市ヶ谷くんのしたことが正しい事とは限らないんだ」


ところどころしか聞こえないが、やはり先日の件に関してのことだろう。
市ヶ谷が謹慎になった話だ。

あまり生徒には知らせれていないことだが、暴力沙汰を起こしたそうだ。そんな噂が流れている。
結果謹慎だけに落ち着いたということは、どうやらそこまで大事になったことではないらしい。


どちらにせよ、学校全体で市ヶ谷っは良くない目立ち方をしたと思う。


彼のことはよく知らないが、正直容姿に反して真面目なやつだと思っていた。

俺自身、市ヶ谷がいない間でずいぶんと彼のイメージが変わっていった。
今後どう関わればいいのか、正直分からない。


ぼうっとしていると扉が開く音が聞こえ、意識が現実へと戻った。

「失礼します」

礼儀正しくおじぎをする市ヶ谷を眺める。
振り向いて扉を閉めようとした市ヶ谷はこちらに気付き、目を丸くして驚いた。
しかし、すぐに平静を装い、扉を閉める。

「帰ろうぜ」微笑みながら片手を持ち上げた。

「何、待ってたの? 気持ち悪いな」

嫌そうな顔をしつつも、市ヶ谷はかばんをだらしなく背負い直した。

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