純愛は似合わない
8.事実
どうして速人なのだろう。
全てが手に入らないから欲しいのか。
それとも、長い思慕の情がそう思わせてしまうのか。
何度も引き寄せられては手を離れ、それでも結局は同じ場所に戻っていく。
浜辺で波にさらわれているような感覚だ。
大きい波が来たらこんな私は、簡単に飲み込まれてしまうに違いない。
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目が覚めると、眩暈がしそうなほどの光が縦型のブラインドの隙間から、私の頭上へと降り注いでいた。
ここにまで日が差し込むとなれば、遅い朝ということだ。
体を起してみたものの身体が妙に甘怠く、その上、裸だったために動くことが躊躇われた。
前に目覚めた時には隣りに居た速人も、私に背を向けてベッドの淵に腰掛けている。
彼は着替えを済ませていて、タオルで頭など拭いていなければ、情事の片鱗すら感じさせない雰囲気だ。
私が起きたことに気付いた速人が、立ち上がって振り返る。
夕べ、硬くすがり付いたシャツも、既にきちんとボタンが掛けてあった。
目が合うと速人は、シャワーを借りた、とだけ言って寝室を後にした。
速人の表情が良く分からない。
酒に酔って寝てしまったと後悔している、とか?
後朝(きぬぎぬ)の女の後悔なんて話しは、履いて捨てるほど良く聞くけれど。
男でも後悔する場合があるのだろう。
読めない彼の態度に、そう結論付けた。
身体に纏うシーツから、速人の香りが微かに漂う。
その香りに溜息を吐いて、ベッド脇に置いてあったコットン生地の部屋着用ワンピースを、頭から被った。