純愛は似合わない
「自分の身体の心配をした方が良いんじゃない? 酔っ払って疲れ果ててる社長なんて洒落にならない」

私の強がりの口は止まるところを知らない。

ここで何か気の利いたことが言えれば、可愛らしい女に見えるのだろうか。

生憎、それは私の個性には無い。


速人は読んでいた新聞を折りたたむと、テーブルに投げ置いた。

でも速人の力加減が弱かったのか、新聞はテーブルから床へ落ちてしまう。

私は横座りしていた体勢を崩して、速人の足元へ落ちてしまったそれを拾い上げた。が、その瞬間、彼の力強い腕が、私の腰に巻き付いて引き寄せられた。

「やだっ、なにっ?」

気付いた時には、彼の膝の上に乗せられていたのだ。

かえって散らばってしまった新聞紙は、ガサガサと音を立てる。

「……少し飲み過ぎたかもな。話しをしに来たつもりだったのに。……お前が呑気に風呂なんか入ってるから」

至近距離から逃さないと言わんばかりに見詰められて、膝の上なんて……。

「あのねっ。私が自分の家の風呂に入って何が悪いの? 貴方が不法侵入したのよ?!」

妙なシチュエーションで、私の胸の鼓動は落ち着かない。

セックスよりもある意味、緊張を強いられる。

多分、この距離は恋人同士の距離だからだ。

私達は何度か抱き合ったくせに、そういう距離にいたことが無い。

「何度も言われたから分ってるよ」

速人は苦笑交じりに頷いて、膝の上に乗せていた私をすぐ隣りに座り直させた。
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