純愛は似合わない
9.
結局のところ、私が週末に片付けてる仕事は簡単なことだけだった。
一つ目は、千加ちゃんに連絡をして父の近況に探りを入れたこと。
父に直接連絡するのは未だにためらいがあって、我ながら姑息な手段だと失笑してしまう。
千加ちゃんは、父の再婚相手とも上手くやっていて、子供達を介して互いの家を行き来している。
父が再婚した女性は長年に渡り父の秘書をしている人で、私も面識があった。
面識がある分、余計に複雑な気分なのだ。
千加ちゃんは私の気持ちを察しながらも、これから先の父を思えばパートナーは必要なのだからと言い切る。
おっとり者の千加ちゃんにしては、あまりにもはっきりとした口調で、私は自然と笑い声を漏らしていた。
光太郎の言葉通りだ。
『いつまでもぽやんとしていられない』
千加ちゃんは彼と共に人生を歩み始め、新しい家族を作った。
だからこそ、パートナーの重要性を説くのだろう。
それを純粋に羨む気持ちもあるけれど、今はこれで良かったのだと思えた。
いつまでも、同じ場所に留まっていられない。
千加ちゃんも、父も、そして私も。
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「電話くれれば取りに行ったのに、早紀ちゃん。重かったでしょ、紙」
ヒロに話し掛けられて、飛んでいた思考をここへ戻した。
二つ目は、これ。
ヒロに頼まれていた帳簿のデータ整理をして、店まで届けた。
事務所の店長室で着替え途中のヒロは、ロッカーから白いシャツを取り出し、私の手元へ投げた。