純愛は似合わない
2.レッテル
「今日の早紀ちゃんは、これまた良い飲みっぷりだねぇ」

バーテンダーのヒロの冷やかしはこの際、無視することにして。
私は自分の指定席である左隅のカウンター席で、本日2杯目のビールを流し込む。

夏に飲むビールはただでさえ美味しいのだが、このカフェバーのビールときたら、泡立ちもきめ細やかで温度もパーフェクト、芸術的に美味しい。

「……もう1杯」

おかわりを催促しながら、店の中を見渡す。

金曜日の夜というのはとりわけ賑やかなもので、この店も例外では無い。

『カフェバー メルカト』は、オープンしてからまだ日は浅いが、既に会社帰りのサラリーマンやOL達に人気の店になっていた。

窓にはステンドグラスがはめ込まれ、ぼんやりとした照明がレトロな雰囲気を醸し出す。オーナーでもあるヒロ本人のこだわりで、ガラスを買い付けにイタリアまで行ったとか、行かないとか。


女性率が高いのは、きっとこの目の前のチャラい男のせいだろう。

茶色い髪は、さり気なくワックスで跳ねさせている。少し長めの前髪で、本当は眼力の強い瞳を柔らかくみせていた。
細身の体に白いワイシャツ、その上に黒いベスト型のカマーエプロン、真紅のクロスタイはワンポイントを添えている。

制服フェチじゃなくても、目を奪われることは間違いなしな男。

本人もそのことを充分理解しているらしく、そうして欲しい女にはチャラそうな軽い言葉を吐き、それを肴に酒を進ませる。

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