純愛は似合わない
ヒロと初めて話しをしたのは、友野の会社に入社して2年目の頃だった。
それも大学時代の友人に無理矢理連れて行かれた、ホストクラブ。
当時の彼は、モートンホテルのバーテンダーを辞めて迷走していた頃で、今より刹那的な目をしていた。
友人の美湖(みこ)曰く「ヒロ君が空いてるなんて宝くじに当たる並にラッキー」と騒いでいたが、宝くじの方が嬉しいわ、と適当な相槌を打って、ただ注がれたハイボールを飲んでいだ。
「ねぇ、どこかで会ったことないかな」
ヒロは客である私の隣りへ寄り添うように座ったまま、まるで安い口説き文句みたいなことを言った。
胡散臭そうなホストの顔をろくに見ずに「ない」とだけ返事をしたものの、彼が美湖にせがまれて器用にシェーカーを握った時、私の脳裏にリンクする画像が浮かび上がる。
「あ。……バーテン」
「そっか。ホテルで会ってたんだ。もしかしてラウンジにいたお姉ちゃん?!」
客室係も宴会係もベルガールもやった。
多分、彼がいたホテルでは、ラウンジのバイトをしていたのだろう。
「俺ね、可愛い子覚えるの得意なんだ」
目を細めて笑ったヒロを見て、穂積さんの言葉を思い出す。
『お嬢、俺の後継者、真田千尋(さなだ ちひろ)。覚えといてくれ』
嬉しそうに指差しした先にいたのは、優美な笑顔を浮かべ接客中のヒロで。
穂積さんの頷く顔が期待のほどを感じさせた。