純愛は似合わない
今のホストクラブはバーの常連さんがオーナーの店で、仕事を辞めたヒロに声を掛けて来たそうだ。


「この世界は年功序列より実力勝負だし、いっそ清々しいよね。で、同じ酒を出すのなら金になる方が良いかなぁなんてね」

ヒロは「格好悪いだろ?」と力無く笑った。


こんな話しを聞かされたのは、アフターと称して私を店から無理矢理連れ出し行った、深夜のショットバーの隅っこで。

何で私にそんなことを告白するのか、と訝しげに問えば、さあ? としか答えないヒロ。


でも、目の前にあった目標が突然、モノクロの世界になる感覚を私も知っている。

何かが共鳴したのかもしれないし、単なる同情かもしれないけれど。

「……あんたが望むなら、穂積さんのところに連れていってあげる。もう、あそこにはいないから」

隣りで戸惑うヒロに笑ってみせる。

「どうせ勝手に消えちゃったんでしょ」

「……店のオーナーに穂積さんが退職した話しは聞いたけど。でも、その後の身の振り方は教えてくれなかったって」

「あのおじさまは、飲みたい人にただ作るだけで良いのよ。地位も名声もむしろ邪魔なだけ」

黙りこくったヒロと穂積さんの店に行ったのは、それから3週間後のことだった。
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