純愛は似合わない
3.友野速人という男
速人から呼び出された翌週は、どこか落ち着かない気持ちを抱えながらも、それを打ち消したくて仕事に熱を注いだ。
普段のデスクワークに加えて、光太郎の部下と『懇親会の打ち合わせ』をし予算のすり合わせまでも行なった。
そして瀬戸課長を介し、早々に速人へ懇親会の概要を煮詰めた案を提出したのだった。
自分でも笑えるくらい、躍起になっていた。
しかし専制君主の如く私に仕事を言いつけ噛みついて来た男は、10日経っても何のアクションも起こして来やしなかった。
同じビルの中にいたって会おうと思わなければ会うことも無い雲の上の住人、それが社長というものなのだと実感する。
私の穏やかな日常が戻りつつあった。はず……なのに、それは社長秘書の松中さんの登場で終わりを告げた。
松中さんは軽やかな足取りで総務課のエリアへ紛れ込み、私を見るなりニカッと笑った。
「な・る・せ・さん」
その笑顔を見て、私の体に薄ら寒い空気が流れる。冷房の風ではないらしい、俗にいう悪寒というやつだ。
「これ、社長から。すぐ確認して欲しいそうよ」
松中さんから封筒に入った書類を手渡され、私は心の中で呟いた。
……さようなら、私の穏やかな日々。
「瀬戸課長では無くて、私ですか?」
「成瀬さんにって。……社長、成瀬さんに対しては分かりやすいのよね」
松中さんは内緒話とばかりに、そっと耳打ちしてきた。
普段のデスクワークに加えて、光太郎の部下と『懇親会の打ち合わせ』をし予算のすり合わせまでも行なった。
そして瀬戸課長を介し、早々に速人へ懇親会の概要を煮詰めた案を提出したのだった。
自分でも笑えるくらい、躍起になっていた。
しかし専制君主の如く私に仕事を言いつけ噛みついて来た男は、10日経っても何のアクションも起こして来やしなかった。
同じビルの中にいたって会おうと思わなければ会うことも無い雲の上の住人、それが社長というものなのだと実感する。
私の穏やかな日常が戻りつつあった。はず……なのに、それは社長秘書の松中さんの登場で終わりを告げた。
松中さんは軽やかな足取りで総務課のエリアへ紛れ込み、私を見るなりニカッと笑った。
「な・る・せ・さん」
その笑顔を見て、私の体に薄ら寒い空気が流れる。冷房の風ではないらしい、俗にいう悪寒というやつだ。
「これ、社長から。すぐ確認して欲しいそうよ」
松中さんから封筒に入った書類を手渡され、私は心の中で呟いた。
……さようなら、私の穏やかな日々。
「瀬戸課長では無くて、私ですか?」
「成瀬さんにって。……社長、成瀬さんに対しては分かりやすいのよね」
松中さんは内緒話とばかりに、そっと耳打ちしてきた。