純愛は似合わない
……ホントに苛つく。
こんな時間を作る速人が恨めしい。

もう一度クリスタルを数えてみる?
今度、数が分からなくなったら帰ろう。

そう心に決めた時、頭上に雨雲のような陰が出来た。

背後の気配に、そのまま首を反らせて確かめてみる。私の座っているソファに片手をついて覗き込んだ速人と、思いっきり目が合った。

「時間厳守が聞いて呆れるわ」

「……待たせたのか。お前のことだから時間通りに来るとは思わなかった」

自分の遅刻を完全にスルーする速人。

私はのけ反らせていた首を戻し、立ち上がる。

「社長様をお待たせする訳にはいかないでしょ?」

嫌味の1つくらい吐いてもバチは当たらないだろう、と思いながらスカートのシワを伸ばした。

「なんでここに呼ばれたのか分からないんだけれど?」

速人はチラと腕時計を見て、私の右肘を掴んだ。そしてエレベーターへ向かって歩き出す。

「予約の時間は、ずらしたから問題ない」

ここのホテルには、カジュアルなイタリアンと中華料理、日本料理のレストラン、そしてバーが併設されている。

ただ夕飯に誘うつもりで、わざわざ松中さんを伝書鳩に使ったって言うの?

「私と食事するつもり?……それもここで」

「何だ?」

「……あーあ、上のバーで飲んでれば良かった」

そうしたら、くだらないことを思い出さないで済んだのに。


私の言葉に速人が笑みを漏らした。今日の彼は幾分、機嫌が良いようだ。
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