純愛は似合わない
「……」
「……」
個室で懐石料理を頂いているものの、一向に会話が弾まない。
大体、私達の会話が弾んでいる時というのは、何か言い争っている時で。
サシで食事なんて調子が狂うことこの上なしだ。
私は所作美しく料理を堪能している速人をチラ見する。
視線を感じたのか、彼は伏せていた瞳をこちらへ向けた。
「……酒が無いのが不満か」
空気が重いのが不満、と言いたいところだったが今回は理性が勝って、首を横へ振るにとどめた。
「……お前の作った懇親会の案、決を出しておいた。明日、瀬戸から話しがあると思う」
「瀬戸課長、ね。お友達の」
「瀬戸に何か言ったのか?……あいつに言われた。お前のこと食えない女だって」
食われる予定も無いし丁度良い。
「瀬戸課長、自分のことは棚に上げてるし」
「あいつは仕事も出来るし、人当たりも良い」
私は煮物をいじくりながら、あの一件以来、何かと馴れ馴れしい瀬戸課長を思い出す。
いや、馴れ馴れしいというより、人に懐いたタヌキ?
速人の言う通り、仕事はきちんとしているし上司としては申し分ない人のはずなのに、日に一度は絡んできて正直鬱陶しい。
良い人を演じてばかりいるから、きっとどこかで発散したくなるのだ。私で発散するのは止めて欲しいけれど。
「千加ちゃんのこと知ってるって言われたわ」
「……余計なことを」
速人は箸を置いて、顔をしかめた。