純愛は似合わない
5.変化
朝、目覚めると隣で寝ていたはずの速人の姿はなかった。
サイドテーブルに置いてあったワールドクロックを見ると、日本はAM10:06と表示されている。
夕べから3日分位の睡眠を摂った気がして、身体を伸ばすと、昨日はまるで力の入らなかった手足とは別物のように軽く感じた。
と、同時に思い出す昨夜の記憶で気恥ずかしさのあまり、子供の頃の悪癖だった『爪噛み』が顔を出しそうになる。
別に何かを受け入れた訳でもなければ、身体を繋げた訳でもない、と気を取り直す……努力をした。
はい。もう、やめ。
深く考えるのを放棄すべく、ベッドから這い出てリビングへ続くドアを開けた。
ややしばらくすると、恥ずかしがる必要性が無かったことに気付く。
どうやら部屋の主は不在らしい。
キッチンのカウンターテーブルには、先日の召集令状と同じ筆跡で書かれたメモ紙が置いてある。
私がこうやってフラフラ歩くことを予想していたということか。
少々むず痒い気分で、その簡素なメモを読んだ。
『急な案件で出社する。冷蔵庫の中のご飯を温めて食べること』
……なんて味も素っ気もない。
業務連絡並の文章に笑いたくなった。
所詮この程度のことなのだ。
私は、冷蔵庫の中から昨日と同じミネラルウォーターを失敬してゴクゴクと喉を鳴らす。
喉が乾いて仕方なかった。
折角だから指示通りに、雑炊らしき食べ物も手にして冷蔵庫を閉めた。