純愛は似合わない
「ドコドコ煩い。 家よ、い・え」

『……じゃ、今行くから』

「ちょっ」

ヒロは返事も聞かず、せっかちに通話を終わらせた。

同じ沿線に住んでいる彼は、電車と徒歩を併せても20分とかからない。

私は気合いを入れてソファから立ち上がり、買ってきた食材を冷蔵庫に入れた。

それから如何にもOLらしいワンピースを脱ぎ捨て、代わりに部屋着のレギンスとコットン素材のチュニックを身に付ける。

ヒロに女子力を発揮するつもりもなく、化粧もしないまま。……今まで素っぴん晒して帰って来たわけだし。

面倒臭いと言ったら、ヒロに白い目で見られそうだけれど。

見苦しくない程度と、部屋の体裁を整えているうちに、マンションの玄関用インターフォンがけたたましい音を奏でた。



「よっ」

「……強引過ぎ」

ヒロは玄関で私の顔を見るなり、顰め面を浮かべた。

「約束忘れた?」

首を傾げて考える私に、ヒロは紙袋を押し付ける。

「この間、店の帳簿見てくれるって言ったでしょ」

「私、経理じゃないんだけど」

書類の入った紙袋とUSBを無理矢理手渡され、溜息が零れた。

ヒロはそんな私に構うこと無く、勝手にリビングの方へと歩き出す。

「これやるのが嫌で店に来なかったんじゃないの?」

「違うわよ。ちょっと忙しかったし」

「ふぅん」

ヒロはさっきまで私が腰を下ろしていたソファへドカッと音を立てて、勢い良く座った。

「……昨日、土橋さんが店に来たよ」
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