純愛は似合わない
「ふぅん」

さっきのヒロに習い、気のない返事を返しながら、冷蔵庫から缶ビールとジャスミン茶のペットボトルを取り出した。

彼にビールを手渡すと、私の手元を見て変な顔をする。ザルの私が飲まないことを訝しく思ったようだ。

「あー、風邪薬飲んでるのよ。流石に飲めないわ」

「顔色悪いのそのせいなんだ」

ヒロは缶ビールを飲みながら、隣に座った私の顔をじろじろ見ている。人の顔をツマミにするのはやめてほしい。

「で、光太郎ちゃんがどうしたっていうの? 」

「凄く俺らの関係を聞きたがってたから、さ」

にこりと笑うヒロの顔がブラックに見えた。
まるで楽しい悪戯を考えている子供のようだ。

「……誤解を生むような発言は控えて欲しいんだけど」

「うん。土橋さん、困った顔してたな」

「何を言ってくれたの?」

ジャスミンの薫りを楽しむ気にもなれず、ペットボトルをヒロの膝に投げた。

「早紀ちゃん、痛いって。聞く前から既に乱暴者」

「どうせあんたのことだから、あること無いこと言って楽しんだんでしょ?」

「無いことは言ってないよ。ただ『俺の大切な人です』って言っただけ。ニュアンス的に間違って無いでしょ」

あまりにヒロがしれっとした顔で言うものだから、私は脱力してソファに身体を沈めた。

「それ、傍から聞いたら恋人宣言だから」

光太郎も、わざわざヒロの店まで行ってそんなことを聞くなんて、何のつもりなんだか。

「それでも構わないって言ったら。……早紀ちゃんどうする?」
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