純愛は似合わない
「今すぐ出てけって言うわ」

「うっわ。……手厳しいねぇ」

ヒロは缶ビール一気に飲み干すと、空き缶をグシャリと潰した。

「でもさ早紀ちゃん、俺もチャンス欲しいんだけど」

流し目でこちらの様子を伺うヒロは、ホスト時代のテクニックを駆使しようと心に決めたのか。

普段のヒロと違い、私相手に色気を大盤振る舞いしている。

「土橋さん、遠回しに早紀ちゃんには決まった人がいるんで諦めて欲しいって言うからさ。……そんな言い方されるとかえって燃えるよね」


光太郎は保身のために動いたのだろうか。
目的がよく分からない。

ただ、ヒロと私の緩くて居心地の良い関係に、楔を打ち込んだことは確かだ。


いつもの彼はこんな目をして私を見ない。

「……あんたのそれって何?」

ヒロは、さあ?と呟きながらソファから身を乗り出し、私との距離を詰めた。

「……彼のせいなんでしょ? 一時期、早紀ちゃんが自棄になって、誘う男と片っ端からデートしてたの」


確かにそんな時もあった。駆け引きを楽しむ振りをして、戯れのキスをして。

それでも、ヒロは苦笑を浮かべるだけで傍観していた。一言も口出しなど、しなかったではないか。

「どうして今頃言うの。あの頃、気にもしてなかったじゃない」

「だって早紀ちゃん、全然本気じゃ無かったから。で、すぐに辞めたでしょ」

それは、虚しくなったからだ。自分の心が満たされないのを何かで埋めようとするのも、他人任せにするのも。
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