純愛は似合わない
……何でこうなった。早紀さんよ。
自分自身に問いかけてみ、変化した要素が分からない。
お互いの部屋で、飲み明かしたこともある。
ヒロとは男とか女とか越えた部分で、分かり合えていると思っていた。それは私が勝手に見ていた幻想なのか。
彼は非常にモテ男で、噂に違わず女性関係だって華々しい、と思う。でも今まで、お互いの男女関係にはノータッチを貫いた。
私達の中では、関係のない事柄だからだ。
実際、光太郎のことだって、何度か穂積さんの店へ一緒に行った時、話しの流れで知られただけのこと。
普段は、ホテル時代に見聞きした酔っ払いの珍騒動や、カップルの悲喜こもごもを面白可笑しく語り合い、思い出話しに花を咲かせた。
時には、同僚には言い難い仕事の愚痴を言い合ってきた。
同じ時代にモートンホテルへ勤めていた『腐れ縁』で繋がっていたからこその、近過ぎず遠過ぎない距離感が楽だった。
ーー 彼はカテゴリ『友人』
それ以上でもそれ以下でも無い。
それが、どうしてこんな甘ったるいことになった?
頭が冴えている時だって驚いただろうけど。
病み上がりで、尚且つこんなにグダグダな自分に、ヒロのパンチは痛かった。
いつも緩くニヤリと笑い、くだらない冗談で心をほぐしてくれたヒロが消えたから。
ソファに転がっていたジャスミン茶を、手に取って口に含むと、独特な薫りが拡がる。
参ったわ……苦い。
いつもより苦く感じるお茶を、ぐっと飲み込んだ。