純愛は似合わない
6.迷走
週末の残りも、ベッドから出ずに過ごした。
ゆっくり寝込んだ、と言う日本語は合っているか分からないが、まさにそんな感じ。
お蔭で月曜日には復調し、こうして出社出来た。
私はまだ誰も来ていない更衣室で、手早く制服用のブラウスに着替える。
私の肌の色を替えた男からの連絡は無い。
もしも勝手に帰ったことに腹を立てて、いつもの口調で嫌味を言われたら、こちらも身体に出来た赤い斑点に付いて物申そうと思っていた。が、その機会は与えられなかった。
今や、まだらに散っているその痕は黒ずんできたようだ。私の白めの肌とのコントラストが余計に目立って嫌になる。
……まあ、沈黙くらいで丁度良いのか、と考え直す。
お前が求めたことだなんて罵られたら、目も当てられない。
自分のロッカーに付いている鏡を覗き、表情を引き締めた。
こんな不安げな瞳はいらない。
総務課のフロアは、掃除スタッフである宮田さんの姿が見えただけで、まだ社員の姿は見えない。
「おはようございます、宮田さん」
私が挨拶をすると、彼はひとの良さそうな柔和な笑みを浮かべ、頭を下げてくれた。
「おはよう、成瀬さん。今日も早いね」
「机拭くの手伝います」
そう告げると、宮田さんの目は三日月のように細まり、目尻には大きな皺が拡がる。