純愛は似合わない
「いつもありがとうね、成瀬さん」
今年の4月、宮田さんが系列の清掃会社から派遣されて来るようになり、毎日似たような会話を繰返している私達。
別に宮田さんだからという訳では無く、その前の人達とも同じように、友好的な関係を築いて来た。
企業はひとりでは動かない。それぞれの人がそれぞれの役割を忠実にこなしてこそ、活きる場所なのだと思う。
宮田さんは体格は中肉中背といったところなのだが、今までのスタッフよりも背筋がピンと伸びていて若々しい。
以前そのことを口にした時、宮田さんはこっそりと「昔から柔道を少し」と言って笑った。
柔道も空手もさして区別の付かない私だが、六十代半ばでも若々しい宮田さんを見ていると、素敵な年齢の取り方が羨ましい。穂積さんと同じ匂いのする人だ。
「あれ? 今日は休みかと思ってたけど、もう良いの、成瀬さん」
総務課の殆どの机を拭き終わった辺りに、良く通る声が私を呼ぶ。
宮田さんの手前、険のある言い方も出来ず、じっと瀬戸課長を見詰めた。
「……金曜は色々と…ご迷惑をお掛けしました」
私が頭を下げるとその頭に重みが加わる。課長の手の中の書類が乗っかったらしい。
頭の上でがさがさ音がする。
「意固地な人だね」
「頭、重いです」
「……これ、今週の懇親会の人数確認と進行表。モートンの担当が午後イチで最終確認に来るから、君もそのつもりでいて欲しい」
「……承知しました」
まるで賞状でも渡されたかのように、更に腰を折って書類を受け取った。
何気なく名簿を手にしてページをめくった時、ある名前に目が留まった。
……あの人だ。
今年の4月、宮田さんが系列の清掃会社から派遣されて来るようになり、毎日似たような会話を繰返している私達。
別に宮田さんだからという訳では無く、その前の人達とも同じように、友好的な関係を築いて来た。
企業はひとりでは動かない。それぞれの人がそれぞれの役割を忠実にこなしてこそ、活きる場所なのだと思う。
宮田さんは体格は中肉中背といったところなのだが、今までのスタッフよりも背筋がピンと伸びていて若々しい。
以前そのことを口にした時、宮田さんはこっそりと「昔から柔道を少し」と言って笑った。
柔道も空手もさして区別の付かない私だが、六十代半ばでも若々しい宮田さんを見ていると、素敵な年齢の取り方が羨ましい。穂積さんと同じ匂いのする人だ。
「あれ? 今日は休みかと思ってたけど、もう良いの、成瀬さん」
総務課の殆どの机を拭き終わった辺りに、良く通る声が私を呼ぶ。
宮田さんの手前、険のある言い方も出来ず、じっと瀬戸課長を見詰めた。
「……金曜は色々と…ご迷惑をお掛けしました」
私が頭を下げるとその頭に重みが加わる。課長の手の中の書類が乗っかったらしい。
頭の上でがさがさ音がする。
「意固地な人だね」
「頭、重いです」
「……これ、今週の懇親会の人数確認と進行表。モートンの担当が午後イチで最終確認に来るから、君もそのつもりでいて欲しい」
「……承知しました」
まるで賞状でも渡されたかのように、更に腰を折って書類を受け取った。
何気なく名簿を手にしてページをめくった時、ある名前に目が留まった。
……あの人だ。