純愛は似合わない
「私がこうして待ってるのに、ずかずか寝室まで来るなんてっ!! 早く出て行ってよっ」

「……ギャラリーがいるのは御不満ですか?」

わざとらしくジロジロと視線を送り、彼女を煽る。

「あなた、おかしいんじゃないのっ?!」

「……貴女がここにいらしてること、知ってますか? 速人は」

家で待つようメールをいれたのは彼だ。
頭の妙に晴れた部分で、速人はこんなズサンなことをするのだろうか、と疑問に思う。

敷島紫の顔が悔しそうに歪んだ。

それが、答えなのだろう。

「今日は貴女の日では無いようですね。…どうぞお引き取り下さい」

寝室のドアを閉めると渇いた音がした。



速人のせい。
……違う、自分のせいだ。

気持ちの無い関係に、勝手に寄り掛かったのは私なのだ。



私の耳の奥底で、何度かドアが開く音がした。

いつの間にか彼女は姿を消して、速人が帰って来たようだ。


「……何だ、いるじゃないか」

ソファで固まったままの私を見付け、彼は軽く溜息を吐いた。

「思ったより遅くなったから、何度か電話したんだ」

1年振りに会う速人は疲れて憂いを帯びていた。

「ただいま」

速人は私に近付き屈み込むようにして、親指の腹で左の頬を撫でる。

私は彼の瞳の中に映る、表情の無い自分を見詰めた。

「……早紀?」

「私…あとどのくらい……貴方につき合わないといけない?」

速人の指先がピクリと動いて、止まる。
< 87 / 120 >

この作品をシェア

pagetop