純愛は似合わない
「……好きな男でも出来たか?」

私を見下ろす彼は、薄い笑みを浮かべていた。

そんな速人から目を反らそうとしたが、彼はそれを許さず、私の頬を両手で挟んで上を向かせる。

「それは無理だね。僕が望む限りは……僕の婚約者だ」

速人は、耳元に吐息がかかるほど近く、囁いた。

瞬く間に彼の舌が耳朶を襲い、私の体はぶるりと震える。

速人は淫らなほど執拗なキスを繰り返した。まるで私の意思を奪おうとしているように。

その激しさの意味が分からず苦しくて、速人の腕の中でもがいた。

「……んっ……やっ」

「止めない。僕がお前を買ったんだ」

速人の口から漏れた現実。それも甘く無い奴だ。

私は自分の感情に振り回されて、その時まで速人の怒りに気付かなかった。

間近で見る彼の冷たい瞳には、憤りが現れていた。

でもそれが、何を差し示しているのか分からない。


「じゃあ何故、あんな風に頼んだの? 私には選択肢なんてはじめから無いのに」

「……お前は断わらない。いや、断れないのか? いつも誰かのためだ。千加のため、光太郎のため、親父さんのため、僕のため。……挙げ句、今度はホストのためか?」

「何の話し?」

「お前、銀行融資の話しをうちの母に頼んだらしいな。奴がお前に言うように仕向けたのか?」
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