純愛は似合わない
「ああ。……こういうことか」

瀬戸課長は自分の前髪をかき上げた。

「社長の言ってた意味が分かった。『君を見てくれで判断するな』って前に言ってたよ。人形みたいに飾っておけない女だって」

「全然誉められている気がしないんですけど」

「自分の意志を持ってるのは良いことだと思うよ、大概は」

課長は口の端を噛んで考え込む表情を浮かべる。

「……君に知らせていないということは、知らない方が良いとの判断なのかもしれないね。それか或いは……」

「或いは、そこまで信用されていないのか、ですか」

私は瀬戸課長の言葉を引き継いで言うと、彼は苦笑した。

「そこまで言わないよ、僕だって。……ただ、彼も敵が多いからね。今回の社長就任だって、かなり揉めたの、君の耳にも届いていたろう?」

私はコクりと頷いた。

「彼の足元をすくいたい人間がいるんだよ」

「……ソリューションの中に?」

瀬戸課長は首を横に振った。

「そこが難しいところ、ってビールが来たみたいだよ、成瀬さん」

振り返るとビールを3つトレイに乗せて歩いてくるヒロの姿があった。


「お待たせ」

ヒロは、言葉を切った課長と私の顔を交互に見る。

「2人共、そんなに飲みたかったの? 顔、怖っ」

「どうせ、当分持って来ないと思ってたし」

「以下同文だね」

ヒロは、課長、私、自分の分と順番にグラスをテーブルの上に置いた。
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