純愛は似合わない
「……課長、彼はこう見えても、意外と真面目な経営者なんですよ」

「早紀ちゃん、意外は余計。俺は堅実実直」

「堅実な人は稼ぎ時に休んだりしないものよ?」

だってぇ、と子供のように拗ねるヒロを見るとつい口が綻ぶ。

「……君達って、本当に仲が良いんだ」

「クサレた友人ですけど」

「今のところは、まだ友人だけど。でも課長さん、マジで邪魔しないで下さいね」

ヒロはゆったり微笑むと、またもや彼らしからぬ言葉を口にする。

「もうっ。やめてよ、ヒロ。この人、私の直属の上司。分かってる?」

「そんなの、時間外でしょ。早紀ちゃんだって、その上司のお方を指差ししてるよ。それはそれで酷くない?」

ヒロは瀬戸課長を指差した私の指を絡めとった。

そして強く私の手を握ったまま丁度通り掛かった寺田君を呼んで、自分のビールと適当なつまみを追加注文し始めた。


「ヒロ。手、止めて」

さり気なく手を引き抜こうとしてもその手は離れない。

ヒロは私の抗議に、ん? と声を漏らしただけで、寧ろ力が加わえれた気がする。

寺田君は繋がれたままの手と私の顔を交互に見やり、勝手に照れた。


……最悪。

ヒロ目当ての客の視線も痛い。

ついでに、思案顔の瀬戸課長の目も。


私の小さく吐いた溜息を聞き付け、ヒロは得意げな顔をする。

ヒロは、私の周りを引っ掻き回すつもりなのか。


自分の役回りに満足してるような感さえあるヒロに、私の溜息は更に深まった。
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