第3ワープ宇宙局
ヴィクター
翌朝、真山徹は寝不足のまま、宿泊施設内の食堂まで向かった。
今日から食事は宿泊施設内て食べる事ができる。
あの売店のレジ係に顔を合わさないで済むと思うと、気が楽だった。
食堂に着くと、名札を見せて厨房から決まった献立が出て来た。
徹には日本人向けの食事が出される。
ごはんに味噌汁、鮭の切身、漬物だ。
地球上と変わらなかったのが少し残念でもあり、嬉しくもあった。
「やぁ。ここ空いてるかい。」
ひとりの少年が声をかけてきた。日本人とわかったのか、日本語で話しかけてきたのだ。
少年は見たところ第3ワープ宇宙局で産まれた少年のようだった。あまりにも驚いたので、
徹はこくこくと頭を下げて、空いてると示唆するだけだった。
「僕はシリル。僕の親は日本人なんだ。凄く親しみが湧いて、思わず話しかけたんだ。」
徹はあぁ。と声を立てた。
「俺は真山徹。察した通り日本人だ。」
徹は心からの笑顔で言葉を返した。
「徹、売店で騒ぎを起こしただろ。」
シリルはいたずらっぽく笑って言った。
徹は味噌汁を吹き出しそうになって慌てて口を押さえ、むせった。
「ごめん、でもここの連中は本当はいいやつばっかりだから、誤解しないでくれよ。ちょっと遊びが過ぎたんだ。からかっただけだよ。」
シリルは笑って、それから親身に伝えてくれた。
「少し気にしてたんだ。体型のこと、これでも地球上では細いくらいなんだよ。でもここの人らときたら、針金みたいじゃないか。」
徹は鮭を口にしながら言った。
「産まれた時から違うから、しかたないよ。」
シリルは優しく笑って自分の食事を口にした。
第3ワープ宇宙局で産まれた人の食事は、どこかゼリーに似ていて、味気なさそうだった。
お互いに、お互いの食事を美味しそうとは思わなかった。
「ところで、昨日売店で騒ぎを起こしたんだけど、知らないおじさんに止められたんだ。地球に帰されると思ったんだけど、そのおじさんが弁当買ってくれて、さっさと会計しろって言ってくれた。あの人にお礼したいんだけど、シリルは誰だかわかるかい?」
徹が尋ねると、シリルは少し考えから、何か気づいたような表情をした。
「ヴィクターじゃないかな。」
暫くしてシリルは言った。
「ヴィクター?」
徹はシリルの次の言葉を待った。
「伝説の人だよ。彼はライマンα天体ヒミコの惑星に降りたただひとりの地球上で産まれ育った人だ。」
と、シリルは言った。
「でも、それはロバート・ルイスじゃ?」
徹が尋ねるとシリルは笑った。
「君は日本人だろ。原爆を落としたパイロットの名前を知らないのかい?ロバート・ルイスなんだよ。ライマンα天体ヒミコの調査にあたったロバート・ルイスは、日本の名前が付けられたライマンα天体ヒミコに行くに当たり、ヴィクターと名前を変えたんだよ。」
シリルは満足そうに言った。
「知らなかった。なんでそんな大事な事、日本人に伝わって無かったんだろう?」
徹は目を丸くした。
「些細な事だからだよ。きっと。こっちが主体でライマンα天体ヒミコの調査をしてるから、そんな些細な事は伝わらない。」
シリルは両肩をあげた。
「日本人は無頓着過ぎる。」
徹はぼやいた。
「地球上から行っても、あまり期待出来ない事業だから、第3ワープ宇宙局からの情報があっても、地球上では意味がないと思ってるんだろね。実際、本当に興味があれば、ここに来てる!」
シリルは両手を広げ、徹を讃えた。
「確かにそうだね。しかし、あのロバート・ルイスと話したなんて!もっと早く気づいてれば握手したのに!」
徹は頭を抱えた。
シリルは笑って徹をなだめた。
「ヴィクターはここの試験官だから、いづれ逢えるよ。でも、宇宙空間では何が起こるかわからないから、あまり感情的になっちゃ駄目だよ。1番良くない事だよ。」
と、シリルは言った。
「そうか、それでは、結果を聞きに行こうか。」
と徹は立ち上がった。
「よし。」
シリルも結果発表を聞きにあのガラス張りの教室へ向かった。