第3ワープ宇宙局
「徹、朝飯食べに行こ。」
シリルが徹を見つけるなり、言った。
「べたべたして、周りに変な誤解されちまうだろ。」
寝起きの悪い徹は少しきつく言った。
「誤解?」
シリルは露ほどもわからないと言った口調で言葉を返した。
「いや俺が悪い、気にするな。」
と徹は頭をかきあげた。
「変な徹。」
口を尖らせてシリルはうつむいた。
「少し気が立ってるんだ。慣れない事をやるから。憂鬱なんだ。」
徹が告白すると、シリルは頷いた。
「僕も同じだ。」
シリルも不安感を持っていて当たり前だ。
徹は少し反省した。

朝食が終わると木星まで旅だった。
木星まで行くのにも数日間はかかる。
そのあいだシリルは徹にべったりだった。
依存体質なのが気になるが、徹自身も気が立ちやすい性格なので、他人の性格の事などとやかく言えない。長い間一緒にいれば、相手を理解し始める。
シリルは日本語を話す事に安らぎを覚えているのかもしれない。
そう感じたのは、シリルが第3ワープ宇宙局の公用語を話す時、日本語より上手くないと知ったからだ。
彼はそれがストレスになっている可能性があった。
親が日本人であるシリルは、普段日本語で話していたのだろう。
実は第3ワープ宇宙局の公用語はロシア語なのだが、日本人は日本人でコミュニティを作り、
そこで日本語だけで生活できてしまうのだ。
それは、ライマンα天体ヒミコの調査の為に産まれ育てられた子どもが、必ずしもヒミコ調査の為に宇宙飛行士になりたいわけではないからだ。
子どもが別の人生を歩みたいと言えば、地球上に戻るか、第3ワープ宇宙局内で作業をする者になるか選択肢があるからである。
第3ワープ宇宙局ライマンα天体ヒミコ調査の会社内では、公用語が必ず使われる。
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