箱舟に乗せた想い
 閉じていた瞳を開けると、どうしてか、その先の未来が、見えなくなった。
 瞳を、開けているのに。
 それはとてもとても儚い、胸中を駆け巡るだけの記憶達だと、一瞬で思い出したけれど。
 私は今、家から徒歩十分程で到着する、思い出のいっぱい詰まった河原へと来ている。
 時刻は、二十時五十分。
 穏やかに、緩やかに流れる川を、一人しゃがみ込んで眺めていた。
 右手には、もう嵌め込まれていない腕時計と、それを仕舞う為の宝箱を持って。
 左手には――――……。
 暗い空を見上げると、無数の星が瞬いていた。
「綺麗だなぁ……」
 その美しさに魅せられ思わずそんな言葉を漏らした。そして視線を、右手の腕時計に向けた。
 時計の針が二十一時を指したら。
 私は時計を宝箱の中に入れ、それをそっと横に置くと、お尻を地面に付けて、両膝を立ててそれを抱え込むようにしながら小さく蹲るように座った。二十一時まで、このまま待機。
 はぁーっと吐き出した息が、白くなった。
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