箱舟に乗せた想い
「さよなら。ありがとう」
 白い吐息と共に吐き出された言葉に、自分で言ったにも関わらず、泣き出しそうになってしまった。
 もう、充分に泣いた。だから、もう泣かない。
 この川を流れた先は、海だ。大きくて広大なあの海に、ゆらゆらと流れて行く箱を、見えなくなるまでずっと眺めていた。水面の夜空、まるで箱が天の川を泳いでいるようだった。


 ――――これからも、ずっと一緒にいようね。
 ――――うん。約束。


 煌いた時間を刻んだ時計。
 先刻まで右手にあったそれは、海へと、広い海へと流れて行くんだ。
 煌いた時間そのもの。
 先刻まで左手にあったそれも、海へと、広い海へと流れて行くんだ。
 そして、きっと優しさになって、この手の平に帰って来るんだ。
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