豹変彼氏~ドラマティックに愛されて~
「ミツ、意外と近くに住んでるね」
光恵の家から徒歩十五分程度の、孝志のアパートの前までやってきた。
「夜道だけど男性と一緒だから安心」って、そんなこと、ある訳ない。
今にも倒れそうなよろよろの孝志を支えながら、光恵は「わたし何やってんだ?」というむなしさに襲われていた。
道路に面した一階の部屋。孝志がドアを開けると、むわあっと、なんとも言えない匂いが広がった。
複雑にからまりあった、かつて食べ物だったものの、におい。
孝志は部屋にはいると、床に落ちていたコンビニ袋からポテトチップスを取り出した。
「さよなら、ポテト」
孝志はそっとポテトチップスの袋を光恵に手渡した。
すさまじい悲壮感。
袋を受け取りながら、光恵は「ねえ」と声をかけた。
「何?」
「まだ断食するつもり?」
「……他に方法あるの?」
「あるわよ」
「ミツが脚本を直して、デブキャラにしてくれるとか?」
「ばかじゃないの?」
「……馬鹿かなあ、俺」
孝志はがっくりと肩を落とした。
ごみごみとした狭い部屋の中の「小デブ」
あまりにも似合いすぎていた。
このままじゃ、舞台は失敗する。
光恵は部屋を見て、恐ろしいことに確信してしまった。