豹変彼氏~ドラマティックに愛されて~
「できればキスシーンなんかを入れて、盛り上げてほしいと」
光恵の頭の中に、孝志とゆうみが手を取り合う光景が見えた。
指をからめ、引き寄せて、顔を近づける。
光恵の心臓が不規則に動き出した。
自分の想像力を恨む。
こんなにリアルに見えてしまうなんて。
三池がじっと光恵を見ている。慌てて平静を装おうとして、大きく息を吸い込んだ。
「ミツ、この仕事つらいか?」
「……大丈夫。いつも通りです」
「でもお前、孝志のこのシーン書くの、しんどいだろう?」
その言葉で、はっと顔をあげた。
「孝志が出て行く前からずっと、お前達二人は惹かれ合ってるんだと思ってた」
「……」
「いずれは付き合いだすのだろうと」
光恵は驚いて三池の顔を凝視した。
「長い間劇団を運営してると、こういうのよく見るんだよ。わかるんだ」
三池が優しく微笑んだ。
「二人で同じ夢を見ているときは、理想的な関係だ。でもたいていは……女性が、先の見えない未来に嫌気がさして、離れて行く」
三池が光恵の頭を撫でた。
「お前達の場合は、孝志の方が先に離れて行った」
「……」
「好きにしていいぞ、先に進むのも、とどまるのも、全部自分の選択だ」
「……はい」
「事務所にはなんて言う?」
「やります。仕事なので」
光恵がそういうと「わかった」と三池は頷いた。
『先に進むのも、とどまるのも、全部自分の選択』
光恵はその言葉を心の中で繰り返した。